荻崎正広短編小説集 『果ての、始まりへ』

(第7回作品) 若い男が庭の椅子(いす)に座っていた  大気が少しずつひんやりしてきたようだった。もう少し先まで歩こうと桐岡(きりおか)は考えた。誰かが待ち受けているようでもなく、眼を止めるような相手とふっとすれ違いそうな感もなかったものの、歩くだけならその方が楽だった。時折、男たちとすれ違った。誰も一人で歩いていた。「今日は俺で終わりにしろ・・・」声が流れてきた。桐岡は声の方に顔を向けた。少し先の、右手の薄茶色の家の庭の椅子(いす)に、半ズボンを穿(は)いた男が座っていた。声の感じよりずっと若く見えた。三十代か、もしかすると二十代かもしれなかった。何か飲み物を手にしていた。「俺では年が離れすぎていないかな・・・」桐岡はその家の前まで来て言った。「たまには爺(じい)さんも味があるさ。やってやりまくってその年になったんだからな・・・」「八十を越えて、無駄に年老いただけだが・・・」桐岡は若い男の眼を真直ぐとらえて、言葉を送った。「無駄だったかどうか、舐めさせた後で、俺が判定してやる。ここで使う・・・。通行人に見られたほうがいいんだろう。最初に尺八、次に尻(けつ)の穴。俺が、よしと言ったら終わりだ・・・。そこから入ってこい」 男はどこか沈んだ口調で言葉を投げた。この日だけでも何人かとやった後なのかもしれなかった。自身、やり終えて前の道を歩い行く姿が頭をよぎる中で、桐岡は男の家の庭に入った。とは言え、眼の前の若い男との交合に初めからさほど惹(ひ)かれないということではなかった。それとは別の事柄だった。同…

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荻崎正広短編小説集『果ての、始まりへ』

(第6回作品) 白みを増す雪   雪が心なし多く落ちてきた。一人で歩いていると、雪も道ずれになる、そんなことを今頃の時季は割りに思う気がする。さほど寒さは感じなかったが、向こうから歩いてくる男に何かしら声をかけようと思うこともあった。顔や軀つきをおおよそ見て取った上だった。ただ、現にそうすることが自分でも呆(あき)れるほど多い訳(わけ)でもなかった。雪が降るからと言って、不意に声をかけられて、交合に応じる男が殊更(ことさら)増えるわけでもないだろう、と自身を茶化すことは昔からだった。 道はさほど広くはなかった。向こうから歩いてくる男の姿が眼に入った。桐岡(きりおか)同様傘はさしてはいなかった。五十前後か。顔形も含め、やや小柄な佇(たたず)まいに、好感を覚える男だった。こういうことが取り立てて珍しいという訳(わけ)でもないな、これまではこういう時、実際はどうしていたかな、と改めて思う間(ま)にも、距離が縮まった。眼が合った。「そんなに、しゃぶりたいか。七十、八十を越えて・・・。男と絡(から)んできたばかりのような顔をして・・・」男は立ち止り気味にすれ違う時、桐岡に声を投げた。小声だが、よく通った。「雪が降る日は、八十代の男の口で温(ぬく)もるのもいいかもしれないな・・・」桐岡はやや大きめの声で返した。「行くぞ」男は桐岡の返事を待つでもなく、そのまま同じ方向に歩いて行った。桐岡は向きを変え、さっき来た道を男からやや遅れ気味について行った。三叉路があり、男は左に折れた。「おまえが舐(な)めたがっている…

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荻崎正広短編小説集『果ての、始まりへ』

(第5回作品)  技(わざ)も風の中に流れていく  風が少し強まった。日も陰ってきた。気温は低めだったが、まずまずしのぎやすかった。桐岡(きりおか)は左手の高い木の元に置かれた木のベンチに腰を下ろした。座って休むことができる、多くは木製のものが数多く置かれているのは、この街の過ごしやすさの一つだった。かなり長い時間、桐岡は茫(ぼう)と座っていた。飽きなかった。時折、男たちが通った。眼は合うこともあり、合わないこともあった。「日が沈みかけている・・・」高齢の男が近づいてきて、そう口にした。桐岡と同じ八十代ほどに見えたが、何歳か上かもしれなかった。老いが、衰(おとろ)えを上回る渋みとなっている顔立ちだった。「最初は尺八がいいか・・・」男は《日が沈みかけている》と初めに話しかけてきたのとそっくり同じ口調で言い、桐岡の正面に立ち、下腹を突き出した。やや強めに風が吹き抜けた。桐岡はすぐさま男の男根を取り出し、一気に喉元(のどもと)近くまで頬張(ほおば)った。「尺八の腕前は飛び切りだと、一目でわかった・・・」男はそう言いながら、桐岡の頭に回した両手を支えにし、男根を中心に、自身の下腹を存分に差し込み、荒々しさも交えながら、思うがままに動かした。「俺の魔羅(まら)を蕩(とろ)かす、年期の入ったいい口だ・・・俺の専用の口にしてもいいくらいだ・・・褒美(ほうび)に尻(けつ)の穴もたっぷり舐めさせてやる・・・」 男はそう言うと、ズボンや下着を一気に下ろし、ベンチの端に両手を突き、張りも厚みも、これと言って老いの表れ…

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